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将来に向けて学校で色覚検査を受けよう!

[2025.06.02]

 2025年6月2日で、開院して4年7か月が経過しました。この日までに、13643名の新規の患者様が来院され、4259件の手術を施行させていただきました。 

 6月10日は『こどもの目の日』です。 生まれたばかり赤ちゃんは視力が十分ではなく、成長とともに視力が向上し、6歳くらいまでに1.0くらいの視力を獲得します。視力が1.0に届かない「弱視」の早期発見・治療や、低年齢化している「近視」の予防において「6歳で視力1.0」は大切な節目と考えられることから、「はぐくもう!6歳で視力1.0」という願いを込めて、6月10日が『こどもの目の日』に定められています。

 学校では新学期が始まり、健康診断で視力検査を受け、視力の低下を指摘された子供さんが数多く受診される時期になりました。

 眼科医としては、このような時期に、子供さんの視力のことはもちろんですが、それ以外で特に気になることがあります。

 それは、色覚検査のことです。色覚とは色を区別する能力のことですが、かつて色覚検査は小学校4年時に学校で色覚検査を受けることが義務化されていました(私の世代も当たり前のようにクラス全員色覚検査を受けていました)が、2002年から必須項目から削除され、その後ほとんどの学校で実施されなくなりました。色覚異常を指摘された生徒が差別を受けるなどプライバシーの観点からなのだそうです。

 日本人では男性の20 人に1 人、女性では500 人に1 人の割合で先天性の(生まれつきの)色覚異常の人がいますが、色覚異常の保因者(本人に異常は出ていなくても遺伝子を持っている人)は女性の10 人に1 人の割合になります。例えば、男女半々の40 人のクラスだと、色覚異常の男子が1 人、保因者の女子が2 人いることになります。色覚異常あるいはその遺伝子を持っているお子さんは決して少なくはありません。先天性の色覚異常には、現在のところ治療法がありません。

 色覚検査が学校で実施されなくなった世代の子供たちが成長し社会に出る時期になってから、大きな問題が浮かび上がってくるようになりました。それは、自分が色覚異常であることを知らずに、色覚異常が支障となりうる職業を選択してしまうケースが散見されるようになったことです。

 職種によっては、色覚異常があることによってその職種に就くことが制限されるものもありますし、職種に就くことに制限がなくとも、業務を遂行する上で大きな支障となるものが現実的にあります。

 幼いころから夢を抱いて就きたいと思って努力を続け、いざその職業の門を叩いた際に、初めて自身に色覚異常があることが判明し、その職業に就くことができないことになった場合、そのショックは計り知れません。

 例え色覚異常のある方でも、子供の時点でそれが分かっていれば、就くことが難しい職種を将来の進路からあらかじめ省くことができます。早い段階で色覚異常の有無を知っておくことは人生設計において、大変重要なことであると言えます。

 ただし、AI(人工知能など)のテクノロジーの発達によって、現時点では色覚についての制限のある職種でも将来的に制限が撤廃される可能性がある(例えが適切ではないかもしれませんが、眼鏡やコンタクトレンズを必要とする人がパイロットになることができるようになったように)ので、完全にあきらめずに常に情報を収集して更新しておくことも重要かもしれません。

 色覚異常が実施されないことによる問題点が、多くの眼科医から指摘されるようになり、日本眼科医会から文部科学省への強い働きかけがなされ、2014年に文科省から、学校が全生徒に対して色覚検査の希望調査を行い、希望者全員に学校で色覚検査を行うようにとの通達がなされました。

 この通達により、現在は以前に比べ学校で色覚検査を受ける子供さんが増えてはいますが、あくまで希望者のみですので、親御さんが色覚検査の重要性についての認識を持っていなければ、子供さんは検査を受けずに成人することになります。

 子供たちには、自分の将来に向けて是非一度、学校で色覚検査を受けていただきたいです。

 色覚異常も程度は様々で、軽度のものなら日常生活にはほとんど支障は出ず、例え程度が強めのものであっても、ほとんどの場合、自動車の普通運転免許を取得することも可能です。

 色覚異常の“異常”という表現は、ネガティブな表現ですが、色覚の異常というよりも、色覚の“個性”、色の感じ方の“個性”であるととらえていただいた方がよいと思います。

 辛い物を食べて、平気な人もいれば、その辛さにとても耐えられなくて食べられない人もいますよね。甘い物は世の中のみんなが大好きではないかと錯覚しがちですが、それが苦手な人もいます。ある映画を見て、涙をぼろぼろ流す人もいれば、そこまで感動しない人もいますよね。それは人によって感動の感度に違いがあるためでしょう。笑いのツボだって人それぞれです。そういったことは、今何かと話題になることが多い“多様性”であり、色の感じ方も“多様性”があるということです。

 世の中の仕組みや決まり事は、どうしても多数派の方を中心に決められてしまうという流れがあり、それは、ある程度致しかないことだと思います。しかしながら、人間は、しばしば、多数派が優れている、少数派が劣っているという考えを持ってしまいがちで、そのことが少数派の人々を傷つけることに繋がってしまいます。少数派が辛い目に合わないよう、社会全体が人それぞれを理解し合って尊重し合って、温かい社会を築いていきたいものです。

色覚異常といわれたら(日本眼科医会)

 

 

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