新しいドライアイ治療薬『アバレプト』
2026年5月2日で、開院して5年6か月が経過しました。この日までに、15804名の新規の患者様が来院され、5130件の手術を施行させていただきました。
当院では、この度、新しいドライアイ治療薬『アバレプト』を採用いたしました。
ドライアイとは、まさに“眼が乾燥すること”なのですが、医学的な定義は、「様々な要因による涙液および眼表面の慢性疾患であり、眼不快感や視機能異常を呈し、涙液膜の安定性低下を伴う」(ドライアイ研究会)とされています。
医師が患者さんを診察してドライアイと診断するための診断基準は、「涙液層破壊時間5秒以下かつ 自覚症状(眼不快感または視機能異常)を有する」とされています。眼球の表面は瞬きをするたびに涙の膜で覆われるのですが、その膜は時間が経過すると壊れていきます。涙の膜が壊れると眼球が乾燥していくのですが、その涙の膜が壊れるまでの時間を涙液層破壊時間と言います。
眼が乾燥すると、痛み、異物感、違和感、痒み、重苦しさ、目の疲れといった様々な症状が生じ、視力低下をきたすこともあります。ドライアイは高齢になるほど生じやすくなります。
ドライアイの治療の基本は点眼薬(めぐすり)です。様々な点眼薬を駆使しても症状の改善が得られない場合は、涙点プラグの挿入(上下の瞼のめがしら側にある涙が排出される穴(涙点)にシリコンでできた栓をはめ込んで涙が眼の表面に貯まるようにする治療)を行ったり、ドライアイの背景にマイボーム戦機能不全(瞼の中にある眼を乾かさないための油分を出すマイボーム腺という袋が働かなくなる病気)がある場合はそれに対する治療を組み合わせることもあります。
ドライアイ治療の点眼薬は、これまでも様々な種類のものが存在していましたが、それらはいずれも涙の量や質を改善させ乾き自体を抑えるというものでした。新しい点眼薬『アバレプト』は、乾きそのものを抑えるのではなく、乾きから生じる症状を抑えるという画期的な治療薬です。
さらに詳しく解説すると、『アバレプト』は眼球の表面に存在する刺激を感じ取るセンサーをブロックする点眼薬です。眼球の表面を構成する細胞には、TRPV1(Transient Receptor Potential V1 トリップブイワン)という乾燥、熱、辛味、酸味、水圧の変化などの刺激を感じ取る受容体(細胞外部からの刺激を細胞内に伝えるタンパク質)というセンサーが存在します。ドライアイの眼では、眼の表面を保護する涙の膜がすぐになくなってしまい、TRPV1がむき出しになってしまうために、TRPV1が刺激を受けやすい状態になってしまうために不快な症状が出てしまうのですが、『アバレプト』は、このTRPV1の働きを抑えてくれるとのことです。
ちなみに、TRPは、私にとって少しばかり馴染みがあります。私がかつて大学院生として勉強をさせていただいていた時代(もうかれこれ25年程前のお話ですが)に、眼球のピント調節の仕組みにTRP(当時は、ティーアールピーと呼んでいました。)が関与している可能性について、当時ご指導いただいていた先生が着目されていたからです。『アバレプト』について製薬会社の方から最初に説明を受けた際に、TRPという用語を耳にし目にした際には、懐かしい気持ちになりました。
日頃、眼科診療の現場で多くの患者さんに接していると、ドライアイの患者さんが驚くほど多く存在していることを実感します。ドライアイによる不快な症状が強くなり、それが続くと、日常生活に大きな支障をきたすことにもなります。我々眼科医の中でも、ドライアイはついつい軽んじられがちですが、身体のどこか一部でも痛みを感じる状況が毎日続くということが人生において大きなストレスになりうることを想像すると、決して軽んじてはならないのがドライアイだと思います。ドライアイ侮るなかれです。
これまで存在していた治療だけでは効果に限界があり、いわば‘手詰まり’となってしまっているドライアイの患者さんは本当に多く存在しているはずです。今回登場した全く新しい作用機序(お薬が効くポイント)のドライアイ治療薬『アバレプト』は、そのようなドライアイ患者さんにとって、大きな光明となってくれるかもしれません。私も大いに期待しております。


