認知症の予防は目の健康から
2025年2月2日で、開院して4年3か月が経過しました。この日までに、12833名の新規の患者様が来院され、3944件の手術を施行させていただきました。
先日、『ランセット認知症予防委員会』という認知症に関する国際的な専門家からなる委員会から、『認知症』の危険因子として『視覚障害』(視力の低下)が新たに追加されることが発表されました。
これまで、認知症の危険因子としては、①聴覚障害、②社会的孤立、③低学歴、④うつ病、⑤外傷的脳損傷、⑥大気汚染、⑦運動不足、⑧糖尿病、⑨喫煙、⑩高血圧、⑪肥満、⑫過度の飲酒の12項目が特定されていましたが、今回新たに、⑬高LDLコレステロールと⑭『視覚障害』の2項目が追加され14項目になりました。
これらの14項目の危険因子を生涯にわたって管理することで、認知症の45%を予防または進行を遅らせることが可能になるそうです。
眼科医にとって、『視覚障害』が追加されたことは、とても大きなインパクトがあります。
超高齢化社会を迎える我が国にとって、認知症はとても大きな社会問題であることは言うまでもありません。最近、認知症に対する新たな治療薬が、日本国内でも使用可能になったというニュースを耳にするようになりましたが、治療薬は大変高額で進行した認知症への効果は期待できないとも聞いております。これから先、更なる新薬が開発されるかもしれませんが、現状すぐにできることは、上記のような危険因子をできるだけ避けて予防することではないでしょうか。
眼科医としては、一人でも多くの方から視覚障害をきたす目の病気を見つけ出し治療することや目の病気を予防するためのアドバイスをすること、更には不幸にして視覚障害に至ってしまった方が残された視機能を活かすためのサポートを行うことなどで、認知症の予防に寄与することができそうです。
視覚障害単体では、その除去によって認知症の発症を減少させる割合は2%とのことで、一見、少ないと感じられるかもしれませんが、視覚障害を有することが、その他の危険因子である運動不足や社会的孤立の誘因となりえるでしょうし、更には、運動不足が肥満、糖尿病、高血圧、うつ病などを、社会的孤立が過度の飲酒やうつ病を誘発していく(その他にもそれぞれの危険因子がお互いの誘発因子として複雑に絡みあっているはずです)ことも想像できますので、視覚障害という危険因子だけでも取り除くことができれば、認知症の予防に大きく貢献できる可能性はあると考えることができるのではないでしょうか。
視覚障害をきたす目の病気は数えきれないほど存在しますが、視覚障害の約9割は、眼鏡処方や白内障手術などで予防や治療が可能と言われています。
数えきれないほどたくさんの目の病気がある中で、当院のような個人のクリニックにできることは限られるのですが、一人でも多くの方の白内障を手術で治療する、一人でも多くの方に適切な眼鏡を処方する、一人でも多くの緑内障、加齢黄斑変性、糖尿病網膜症・黄斑浮腫などの患者さんに持続的な治療を行って視機能を維持していただく、どんな些細な要因でも一人でも多くの方の視機能を妨げる要因を取り除く、一人でも多くの方の目の病気を早期に発見する、一人でも多くの方に目の健康を維持するためのアドバイスをするなど、できることはたくさんありそうです。
医療全体でみると、眼科は眼球とその周辺の診療に限定される診療科で、命に直接かかわるわけでもなく(厳密にいうと腫瘍など命に直結する疾患もあり、全国を見渡すと、その分野に従事されている専門家の先生もいらっしゃいます。)、一見“ちっぽけな科”にすぎないかもしれませんが、眼科診療が認知症の予防や進行を遅らせることに繋がるのであれば、私自身も大変うれしい気持ちになりますし、日々の仕事に対するやりがいを一層感じることができます。
例え小さなことでも、コツコツこと積み重ねることで、大きな社会貢献につながるということを肝に銘じて、これからも小さな努力を続けてまいります。
【認知症の危険因子】①聴覚障害②社会的孤立③低学歴④うつ病⑤外傷的脳損傷⑥大気汚染⑦運動不足⑧糖尿病⑨喫煙⑩高血圧⑪肥満⑫過度の飲酒⑬高LDLコレステロール⑭視覚障害