緑内障という長い長い旅路
2025年3月2日で、開院して4年4か月が経過しました。この日までに、13006名の新規の患者様が来院され、4009件の手術を施行させていただきました。
3月9日から15日は、『世界緑内障週間』です。
緑内障は、眼球の後方部分にある網膜や視神経を構成している神経細胞が減少して視野が狭くなり、失明に至ってしまうこともある眼の病気です。たとえ失明に至らなくても、視野が狭くなれば、自動車の運転も含め、日常生活に大きな支障が出てしまいます。
世界緑内障週間は2008年から世界一斉に行われている緑内障啓発のための国際的イベントです。毎年3月上旬の1週間を世界緑内障週間と定められています。
世界緑内障週間に合わせて、緑内障の「緑・グリーン」にちなみ、毎年全国各地、世界各国で、『ライトアップ in グリーン運動』が実施されております。当院も毎年、クリニックのサインの照明を緑色にして、この活動に参加させていただいております。
また、この期間に合わせて、スタッフ全員が『世界緑内障週間』のバッジを着用して、スタッフ自身と患者さんが緑内障に対する意識を高めるための啓発活動を行っております。
この活動を通じて、オホーツク地域において、一人でも多くの緑内障患者さんの発見や治療の継続に繋がり、一人でも多くの方を緑内障による失明の危機から救うことに繋がってくれればと考えております。
緑内障は我が国における失明原因の第一位です。40歳以上の20人に1人、70歳以上では10人に1人緑内障を発症するともいわれ、ある地域における調査では、全緑内障患者さんの90%近くが未発見であったとの報告もあります。
緑内障は、かなり重症になるまで自覚症状がほとんどなく、現在の医学では狭くなった視野を元に戻す治療は存在しないため、早期に発見することが非常に重要です。
また、多くの緑内障は進行し続けるので、一生涯にわたって治療を継続しなければなりません。そのため、全世界、国内において、緑内障の早期発見や治療の継続に繋がるための活動が盛んに行われるようになっているのです。
私が医学部を卒業し医師として働き始めたのは28年ほど前ですが、その当時に比べて、緑内障の患者さんの数や重症な緑内障の患者さんの数が非常に多くなった印象があります。緑内障は高齢になるほど発症しやすくなりますので、超高齢化社会になってきていることが関係していると考えられますが、その一方で、医学の進歩、検査機器の進歩、眼科健診の普及で以前より多くの患者さんが発見されるようになったことも関係していると考えられます。
さらには、近視が強くなると緑内障を発症しやすくなることが分かっておりますが、昨今の我が国も含めた世界的な近視人口の爆発的な増加に伴い、将来的に緑内障の患者さんも増加することが予想されております。そのような意味では、子供の近視の発症予防や進行抑制治療は将来的な緑内障患者の増加の予防にもつながると考えられております。
緑内障の治療は、目薬による治療が一般的です。目薬によって眼圧(眼球内では、眼球内の細胞に水分や栄養を与えるための液体が絶えず作られ出ていくという循環が繰り返されており、眼球内には、その液体が常に一定量貯まっているのですが、その液体の量によって決まる眼球の固さのこと)を低くすることで、病気の進行を食い止めたり遅らせたりします。
緑内障の治療には、目薬のほかに、レーザー光線による治療や手術などありますが、いずれの治療も目的は同じで、眼圧を下げることで病気の進行を食い止めたり遅らせたりすることであり、狭くなった視野、失われた視力を元に戻すことはできません。
最近は、医学の目覚ましい進歩のおかげで、非常に多くの種類の緑内障の目薬が使えるようになりました。私が医師になりたての頃に比べると雲泥の差です。
それぞれの目薬には、それぞれ特徴があり、眼球の部分のどの部分に効いて眼圧を下げるのか(作用機序)の違い、点眼回数の違い、点眼する時間帯の違い、副作用の違いなどがあります。
最初は、1種類の目薬から開始しますが、重症の場合には複数の目薬を同時に開始することもあります。最初の1種類めをどの目薬にするのかは、様々な要素を考慮して医師が決定します。
緑内障は基本的に一生涯治療を継続していかなければならないため、目薬は毎日続けなければなりません。そのため、できるだけ毎日続けられるようにするための配慮が非常に重要です。
目薬を毎日続けることは、1日たった1回であっても、とても大変なことです。そのため、回数はできるだけ少ない方がよいですし、種類も少ない方がよいに決まっています。その点は目薬を選択するうえでかなり重要な点です。
飲み薬や注射薬も含めて、どんな薬でも共通することですが、薬には本来の目的とは異なる身体にとって好ましくない副作用が多かれ少なかれあります。緑内障の目薬のそれぞれにも副作用があります。目薬によっては、目の周りの皮膚が黒ずむ、まつげが太く長くなる、瞼がくぼむ、目がかゆくなる、目が赤くなる、目がかすむ、目が痛くなる、瞼の皮膚がただれる、心臓や呼吸器に影響が出る、眠くなるなど、確率が低いものを含めると数えきれないほどの副作用があります。
目薬の選択に当たっては、一律に眼圧を下げるという観点だけではなく、その患者さんに治療を継続してもらうために、それぞれの患者さんの様々な背景(緑内障の程度、緑内障の種類、片眼か両眼か、性別、年齢、身体の病気、性格、家族構成、職業、経済的背景など)を考慮しています。そのために、問診によって得られる患者さんの情報、診察における患者さんとの会話、患者さんの表情、実際に目を診察する時に視診や触診で得られる様々な情報が判断材料として重要な要素となります。
最初は1種類の目薬から開始しても、病気の進行が食い止められていなければ(定期的な眼圧検査、視野検査、視力検査、眼底検査、眼底写真、網膜断層撮影などの結果から総合的に判断します)、2種類目、3種類目、4種類目と追加していかざるを得なくなりますし、副作用があれば、中止し種類を変更しなくてはなりません。毎日、一生涯にわたって続けなけらばならない目薬ですので、一見小さな副作用でも、継続の妨げになってしまうため決して侮れません。
最近は多くの種類の目薬があるといっても、選択肢には限りがありますので、全ての選択肢をもってしても病状を抑えられない場合は、別の治療であるレーザー光線による治療や手術を考慮することになります。レーザー治療も手術の分野も最近の進歩は目覚ましく、眼球にとって患者さんにとってより負担の少ないものが開発され普及してきており、可能なものは当院でも取り入れております(選択的レーザー線維柱帯形成術(SLT)、眼内ドレーン挿入術(iStent挿入術)など)。
当院は、これからも、オホーツク地域において、一人でも多くの方の緑内障の早期発見、一人でも多くの緑内障患者さんの通院および治療の継続に寄与できるよう努めてまいります。
緑内障は、生涯にわたって治療を継続していかなければならない、生涯にわたって付き合っていかなけらばならない病気です。患者さんにとっては、ゴールが人生のゴールと同じ地点にある、長い長い旅路です。患者さんには、病気に対する理解を深めていただきながら、覚悟を持って、その旅路を、毎日コツコツ一歩一歩、歩んでいただかなくてはなりません。ご家族の理解やサポートも大きな支えとなります。私たちは、その長い長い旅路を歩んでいく患者さんに、少しでも寄り添ってサポートできるよう、共に歩んで行きたいと考えております。